TSUCHIKURE
― 隆起する土塊( ツチクレ)、透明な余白 ―
屋久島は、花崗岩の基盤の上に、数千年の森が育んだ豊かな土壌を抱いている。本計画は、建築を地表に「置く」のではなく、大地そのものが隆起し、空間を内包する姿を再構築する試みである。建築は、対照的な二つの要素によって構成される。
一つは、傾斜地に深く根を下ろす「土塊( ツチクレ)」。現地の土を混ぜ込み、一体で打ち固めた壁面は、自然の土がそのまま凝固したような温かく重厚な質感を纏う。
もう一つは、土塊の隙間に差し込まれた「透明な回廊」である。
光や視線を遮るもののない余白は、土塊の存在感を際立たせながら、森の起伏、湿度、風、そして雨の気配を内部へと透過させる。隆起した土塊と、そこに生まれる透明な余白。この建築は屋久島の表土の延長として振る舞い、風景と身体のあいだに、新たな静けさの境界を彫り出す。


― 土塊の静寂、雨のランドスケープ ―
土壁による高い「遮音性」と、ガラスによる極限の「透過性」。 対照的なマテリアルが生み出す環境の差異が、滞在のシークエンスを構成する。
1.静寂と質感
コア内部の壁面は、土そのものの素材感を活かした、温かみのあるテクスチャで仕上げられている。 土特有の吸音性が、風雨の音を柔らかく和らげ、原初の洞窟に守られているような安息をつくり出す。 外界から閉ざされるわけではない。穿たれた開口部は、それぞれの部屋だけの固有の風景を切り取り、屋久島の自然の美しさと静かに向き合う時間をもたらす。

2.没入する透明性
一転してリビングでは、物理的な「壁」の存在が意識から消滅する。 ガラスという物質を超え、森の大気の中に身一つで浮かんでいるような浮遊感。 守られた快適な室内にいながら、霧の動きや光の移ろいといった、刻々と変化する自然現象そのものに「没入」する体験がここにある。


3.雨の彫刻
「一月に35日雨が降る」と言われる屋久島の気候において、この建築は雨を受け入れ、その気配を空間に滲ませる。ヴォイドの中央に鎮座する段状の彫刻体は、雨を受け止め、その流れや飛沫を可視化する。 中央の開口は雨水と共にトップライトの光を透過させ、直下にある1階プールへと、水紋と揺らめく光を落とす。



概要
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設計:アトリエ ユルリ / 株式会社 パターソン
延べ床面積:289.85 ㎡
構造:鉄筋コンクリート構造一部鉄骨造